UPSの動作不安定原因が高調波だったとわかるまでの騒動記(実際にあった高調波の影響)
パソコンをある程度の台数を使う企業の多くは、ファイルサーバーを導入していると思います。そしてその電源にはUPS(無停電電源装置)を設置しているはずです。
今日は、実際に経験しためったにないと思われる事象について書いてみます。知識としては聞いていたけど、初めての経験だったと電気のプロ(電気主任技術者や電力会社)も口にしていたことから、極めてレアな事象だと思います。
もしかしたら、今、同じような悩みを抱えている総務や情報担当者がいるかもしれません。その原因の一つに「高調波」があることを知っていただければ嬉しいです。
<設定条件>
以前某中小企業(高圧需要家)に勤務していた時の話です。
PCは14・5台を使用し、ファイルサーバーを導入しており、UPS(無停電電源装置)と接続していました。また、停電などでUPSが作動した場合、2分位でファイルサーバーを自動でシャットダウンさせデータを守る運用をしていました。
UPSイメージ ファイルサーバーイメージ
<騒動のはじまり>
ある年の春の朝、出勤するとファイルサーバーがシャットダウンしていた。夜中に少し長い停電でもあったのかと、再起動させる。
翌朝、またファイルサーバーがシャットダウンしていた。確認するも停電はなかった。その翌日は、特に問題なくファイルサーバーは動いていた。その後、シャットダウンしている日が度々発生して、朝の再起動が日課になってしまった。
<ちょっとおかしくないか>
素人情報担当だった私もさすがにちょっとおかしいと思いはじめた。たこ足配線の電源だったことから、電源をとるコンセントを変えてみたが状況変わらず。電気工事店に依頼して専用回路にしてみるも状況は変わらず、??となるも何とかしないとの想いが強くなる。この頃からシャットダウンした日を記録し始める。
<原因追及1>
早出出勤の者から、UPS付近からシャカシャカといった異音が出ているとの情報あり。新しいUPSを取り寄せ、交換してみるも状況は変わらなかった。
<原因追及2>
ファイルサーバーのバックアップは毎日できていた。毎夜2時に行う設定としていたので、シャットダウンするのは午前2時~8時の間ということが想定できた。
また、土日には発生せず、平日も毎日ではないことがわかってきた。
<原因追及3>
UPSの取説をみると、電圧が一定範囲を外れると正常に動作しないとある。当たり前だし、そんなに変動していたんではPCにも影響があるだろうと思いながらも、委託先の電気主任技術者に調査を依頼した。
1週間程度機器を付けて測定するも当然問題ない範囲であった。ここで既にお手上げの状態となる。
<原因追及4>
再度UPSの取説やホームページ等で調べ始めたところ、「高調波」という気になる単語をみつけ、再度電気主任技術者に調査を依頼した。
ところがこれを調べる機械はその所属する協会では県に一台しかないという。しかも今までに使ったことがないとのことで取説を見ながらの調査となり、1週間しても肝心なデータが取れずにいた。
<原因追及5>
高圧受電の企業の場合、引き込み線より内側の問題は企業側が対応する必要がある。ただ今回は、なんとなく(直感で)電気主任技術者に電力会社への情報提供を依頼した。すると何故か電力会社もすぐに同様の機器を使って調査してくれることになった。
<原因判明>
1週間後、調査結果がでる。なんと特定の時間に異常な高調波が検出されたのだ。難しい高調波の話は説明を聞いてもよくわからないが、とにかく異常な「高調波」が検出され、影響を及ぼしている可能性があるとされた。専門的な事が知りたい方は、後述する「高調波抑制対策ガイドライン」を見て頂きたい。
<原因の検証と対策>
電力会社からの提案で、変電所から会社への送電ルートを変更してみることとなった。するとどうだろう、その日を境にピタっと事象が収まったのである。理論的とは言えないがあの異常な「高調波」が原因だと断定した。その後、変更した送電ルートで運用していくことで会社への対策は終了した。
発生から既に5か月を要していたが、電気主任技術者や電力会社の担当者と貴重な経験をしたことで良しとしようとなった。
もし、送電ルートの変更ができなかったら、解決にいたるまで相当の期間を要したろうし、もしかしたらまだ解決できていないかもしれない。ラッキーだった。
<本当の対策について>
会社としては、これでひとまず解決なのだが、この後は、本当の対策に向けて電力会社が大変になる。その異常な高調波を発生している企業の特定と、企業に対しての高調波対策の説得である。電力会社としては、まともな品質の電気を送電しているのに、そこに問題のある機器が接続されて下流の企業に影響を与えているからだ。
問題企業自身としては、自分では支障なく機械を使用できているのに、なぜ多額の対策費用を自らかけなければならないのかと思うだろう。
説得が困難な事は容易に推測できる。
<その後>
機会がある都度、電力会社にその後の状況を聞くもやはり難航しているらしい。問題の企業は特定できたもののやはり対策の説得は大変なようだ。ま、これ以上は電力会社にお任せするしかない。
<まとめ>
「高調波」の影響で実際に被害を受けた時、それを取り除くには自分の力だけでは難しいです。もしそうなった時には、電力会社と協力しあって対応していく必要があると思います。今回はたまたま送電ルートの変更という、裏技的な対応で解決できましたが、それができなければ、原因発生企業自らが対策をしない限り本当の解決にはならないからです。
UPSの不具合についてネツトで検索しても、「高調波」について触れているものはまず見当たらないです。もしUPSの不具合がなかなか解決しない時は、「高調波」も疑ってみてください。
<参考>
※特定需要家ガイドライン:高調波抑制対策の基本事項を規定したもので、H6年10月に資源エネルギー庁公益事業部長より通知された。その 後、H16年1月に改定され、原子力安全・保安院(当時)より通知され た。関連業界に対して遵守義務を課している。